9.26.2009

Rinki



死刑のことで何か聞かれた時、僕は郷田マモラさんの「モリのアサガオ」や森達也さんの「死刑」を読んだくらいなので、「よくわかりません」としか答えられないのだけども、半年程前のかわら長介さんのブログには少し影響された。「人間、そんな臨機応変か!」と。「その黙々たる光景は、果たして喜劇なのか、悲劇なのか、それともホラーなのだろうか。」と。

だが思う。人間、仕事だからと云って、その役に付いたらすぐさま人を殺す命令を出せるものかと!
 人間、そんな臨機応変か!
 なんや、君子豹変か!

さて、こうした事を現実の「死刑」の実務に照らし合わせてみた時、更に疑問は大きくなる!

【死刑執行手続き】・・・大まかに
 〜日本の死刑執行は法務大臣の命令によらなければならない(刑事訴訟法)。そして執行は、死刑判決確定後6か月以内に行われなければならない〜という今や形骸化した大前提の下

 ▼死刑が確定すると、公判記録が該当検察庁に送られる。
    ↓
 ▼書類を受理した検察庁の検事長(高等検察庁)、または検事正(地方検察庁)はその死刑囚に関する上申書を作成し法務大臣(実際には法務省)に提出する。
     ↓
 ▼それを受けて法務省刑事局は検察庁から裁判記録を取り寄せる。
     ↓
 ▼その記録を刑事局総務課が点検。資料が全部揃っているか、落丁が無いかを調べる。
     ↓
 ▼更に、刑事局付きの検事が、「刑の執行を停止する事由」「再審の事由」「非常上告の事由」「恩赦相当の事由の有無」などを審査する。
     ↓
 ▼その結果、それらの事由が無いと検事が確認すると、死刑執行起案書の作成に移る。
     ↓
 ▼作成された起案書は、先ず刑事局内で、
  担当検事⇒参事官⇒総務課長⇒刑事局長の順で決裁される。
     ↓
 ▼次いで、刑事局から矯正局に回されて、
  参事官⇒保安課長⇒総務課長⇒矯正局長の順で決裁される。
     ↓
 ▼更に矯正局から保護局に回されて、
  参事官⇒恩赦課長⇒総務課長⇒保護局長の順で決裁される。
  ふうっ!(汗)
     ↓
 ▼この起案書が再び刑事局に戻り、刑事局長が矯正局、保護局の決裁を確認し、起案書を「死刑執行命令書」と改名して法務大臣官房に送る!
     ↓
 ▼大臣官房でもまだ続く、
  秘書課付き検事⇒秘書課長⇒官房長⇒法務事務次官の順で決裁される。
     ↓
 ▼そしていよいよ法務大臣がサインをする!
(※但し、事務次官の決裁は法務省の最終決定であり、次官が決裁したものに大臣がサインをしないという事は殆ど無いそうである。うん?法務大臣ってナニ?)
     ↓
 ▼法務大臣が決裁した「命令書」は該当検察庁に送られ、「死刑執行指揮書」が作られる。
     ↓
 ▼同時に、拘置所に死刑囚に関する書類が届けられ、執行の準備に入る。
     ↓
 ▼執行当日、検事が「執行指揮書」を持って拘置所に赴き、死刑囚に対し拘置所長がその「指揮書」を読み上げ、刑が執行される!
 尚、刑の執行は大臣決裁から5日以内に行わなければならない。

 長っ!多っ!面倒くさっ!

 
 ともかく、法務大臣のゴーサインまで少なくとも20人の人間のチェック機能が働く。つまり、死刑でいいかどうか判断するのである。そして日本の裁判史上、なかんずく死刑史上、殆どの場合、「死刑OK」の裁断が続き、厳かに死の儀式が執り行われてきたのである。

 僕は思う。その中の誰か、誰かひとりでいいから、「NO」と、「おかしい」と、「間違っている」と言わないのかと。
 理由は幾らでもあろう。
  〜制度への不信
  〜人間への信頼
  〜己の宗教心に照らし合わせて
  〜己の過去の咎(とが)に思いめぐらせて
  〜己が家の因果応報を思って
  〜自己の死生観故に
  〜世紀末思想から
  〜昨日の占いにより
  〜母の遺言に従って
  〜報道ステーションを見て
  〜ペットの死に遭遇して
  〜太陽がまぶしかったから
  〜時計を見ていて
  〜魔がさして
  〜自瀆行為の挙句
  〜退屈凌ぎで
  〜その場しのぎに
  〜自分を変えたくて
  〜目立ちたくて
  〜死に土産に
 ま、キリがない・・・
 しかし、その20人を超える人達が、上記の如き観点の何ひとつをも想起しないまま、粛々とハンコを押すのだろうか。
 人の壁の厚さよ!

 その黙々たる光景は、果たして喜劇なのか、悲劇なのか、それともホラーなのだろうか。
 

 無論、そこまでに先ずは裁判がある。その段階で何千、何百と云うチェックとその都度の裁断を通り抜けての死刑確定なのだが。

 ・・・余談だが、そう考えた時、やがて実施される裁判員制度。「この人は死んでもいい」と云う判断をしなければならないのだが、あなたは大丈夫か!
 

「かわら長介 たくらだ堂」ー106〜2009年2月の死刑ーより

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